耳より!SPかわら版

第14回:ビットコインについて

さて、前回は税理の先生に仮想通貨についてのお話を伺いましたが今回は法律面から
仮想通貨について弁護士の秋山健人先生にお話を伺いました。

中曽根:今年に入り、仮想通貨の話しが毎日のようにニュースになっていますね。

秋山:最近の新聞報道でもあったとおり、仮想通貨取引所のシステムに対するハッキングにより、約580億円相当の取引所の仮想通貨保有残高が一瞬にして消失するなど、セキュリティ面でのリスクも懸念されている状況ですね。仮想通貨は近年になってその需要が急速に高まってきた分野であり、日々新たな種類の仮想通貨が発行されたり、新しい仮想通貨の利用方法が生じるなど(最近では、「ICO」といって、企業が独自の仮想通貨を発行して資金調達を図る事例も現れ始めています)

中曽根:これほど話題になると、法規制もすでにできあがっているのでしょうか。

秋山:「仮想通貨法」という法律があるわけではありませんが、平成28年に「資金決済法」及び「犯罪収益移転防止法」という2つの法律が改正されて、新たに仮想通貨に関する規制が設けられました。
 資金決済法の改正により、「仮想通貨」が法律で明確に定義されるとともに、仮想通貨の取引窓口となる業者(コインチェックやビットフライヤーなどの仮想通貨取引所が代表例です)を「仮想通貨交換業者」と位置付けて行政庁による登録制が導入され、仮想通貨の利用者の財産をしっかりと管理したり、正確かつ安全な情報の提供が義務付けられる等、仮想通貨の利用者の保護のための厳格な規制が設けられました。なお、この資金決済法の改正により、それまで「モノ」と扱われていた仮想通貨は、「貨幣」と同様の扱いを受けるようになり、その結果、仮想通貨自体に消費税が課税されないようになりました(仮想通貨の価値の高騰によって得たキャピタルゲインに対しては、当然、所得税がかかります)。
 また、匿名性が高いという特徴を持つビットコインは、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金の原資として利用されるリスクがあります。そこで、犯罪収益移転防止法が改正され、仮想通貨交換業者に、取引開示時の利用者の本人確認義務や、犯罪収益が仮想通貨に流れ込んでいると疑われる取引について行政庁への届出義務が課される等の規制が設けられています。  このように、仮想通貨に関する規制は、利用者の保護や犯罪への利用防止を目的とした、仮想通貨交換所に対するものであり、個別の利用者間の法律関係を規律する法律はありません。このような個人間の問題については、民法などの一般法の原理原則を応用して解決を図る他ないのが現状です。


中曽根:今も問題がおこっているようですが、仮想通貨詐欺やお金が盗まれてしまったなどの問題が発生したときはどうなるのでしょうか。

秋山:仮想通貨の詐欺事件として、最も有名なものの一つとして、仮想通貨取引所「マウントゴックス」の経営破綻が挙げられます。平成26年2月、当時世界最大のビットコイン取引所であったマウントゴックス社において、預けられていた約65万ビットコインが消失し、これにより同社が経営破綻したというものです。このビットコインの消失に関してマウントゴックス社の代表者が業務上横領罪で起訴されておりますが、代表者は容疑を否認しており、未だ事件の全容は解明されていません。なお、マウントゴックス社の経営破綻は、同社の資産管理がずさんであったことが主要因であり、上述した資金決済法の改正の大きなきっかけとなっています。
 また、最近では、日本の大手取引所「コインチェック」のシステムがハッキングの被害に遭い、同取引所が保有する約580億円相当の仮想通貨「ネム」が流出するという事件も発覚しています。仮想通貨は、情報改ざんが困難なブロックチェーン技術が用いられていてその安全性が高く評価されていますが、ハッキング等によって他人に成りすますことで、他者が保有する仮想通貨を盗み取ること自体は技術的に可能です。仮想通貨取引所には、ハッキングに耐えうる安全かつ強固なシステムの構築がまさに求められている状況と言えます。なお、取引所に仮想通貨を預けている個人がハッカーによって仮想通貨を盗まれてしまった場合、被害者である個人としては、ハッカーへの損害賠償請求等が可能ですが、匿名性の高いハッカーの素性を特定するのは至難の業であり、このような方法は現実的には難しいでしょう。被害者としては、ハッキングに耐えられない脆弱なシステムで管理をしていた取引所を相手に、被害の補償を求めることになりますが、請求が認められるかは、システムの安全性や強度、ハッキング技術の専門性・複雑性等によりケースバイケースかと思われます。
 さらに、市場価格の高騰を約束して高値の手数料を騙し取ったり、存在しない仮想通貨を存在するかのように偽って売りつけたりする詐欺も横行しているようです。取引所を経由しない仮想通貨の相対取引は、詐欺まがいなものが多く、注意が必要です。

中曽根:仮想通貨は国内だけでなく世界中で取引をされていますが、日本と海外の仮想通貨のやり取りで問題が起こった時は日本の弁護士さんが対応してくれるのでしょうか。

秋山:仮想通貨の取引は容易に国境を越えて行われるため、海外の取引所や個人利用者との間でトラブルになる事例は、今後増えてくると思われます。この場合、どの国の法律を適用するのか、どの国の裁判所で解決するのかといった難しい問題が残されています。このような問題の解決には、仮想通貨の法実務に関する専門的知見の他に、世界各国の仮想通貨規制についての深い知識が必要でしょう。未だ発展途上である仮想通貨に関する法律実務に詳しい弁護士は、日本の弁護士の中にさほど多くはなく、ましてや渉外紛争について的確な助言や事件処理を行える弁護士はごく一部と思われます。

中曽根:いい面だけでなく、さまざまなリスクも理解した上で取引をしないと「こんなはずじゃなかった」という事になってしまうかもしれませんね。
    秋山先生ありがとうございました。

秋山:仮想通貨に安易に手を出すのではなく、仮想通貨に関する十分な知識と慎重な姿勢が必要でしょう。

2018-04-09

服部総合法律事務所 弁護士 秋山健人