耳より!SPかわら版

医療現場に求められるリーダー像

第12回:訴訟リスクの回避のために

"職場内のハラスメントだけでなく、患者さんからの申し立て等により賠償責任を問われる訴訟問題に発展すると、病院全体に対する否定的な評価はあっという間に広がり、信用が取り返しのつかないほど大きく損なわれてしまいます。医療行為のミスが原因となるケースのリスク回避はここでは論じられません。それには該当せずに、患者さんとのコミュニケーション不全が原因で患者さんの怒りが嵩じた結果、訴訟に発展するような事態を防ぐために、何に気をつければ良いのか考えましょう。 患者さんが怒りを爆発させる前の段階として、患者さんの心の中には、痛い、辛い、不安、わかってもらえない、不満といったネガティブな感情が生じていることが多いのです。そして、心の中に溜まったマイナスの感情が一定の水準(許容量)を超えた時に、初めて怒りとして表に現れてきます。しょっちゅう怒っている人は、許容量がもともと少ないか、許容量の上限近くまで負の感情が溜まっているということです。 感情トラブル回避術 さらに、イライラを放置すると心身に異常が生じやすくなります。怒りの感情は、身体、自尊心、名誉等が脅かされる危険から身を守るために必要な感情です。怒りを感じるということは、心身に危険信号が生じて緊張状態に置かれ、そこにエネルギーが消費されます(怒った後に疲れを感じるのはそのためです)。元々何らかの病気を抱えている患者さんが怒りを感じると、心身への負担が倍増し、病状が悪化するといった負のスパイラルに陥ってしまいます。したがって、イライラを放置させないよう患者さんの怒りの根底にある感情に意識を向けましょう。 表面的には、医師やスタッフからの説明に納得できずに怒っているように見えたとしても、その人の心が将来への不安でいっぱいになり混乱しているなら、詳しく説明することに時間をかけてもその不安は解消されません。それよりも、不安自体を少しでも取り除く方法を見つけ出すことが、根本的な解決につながります。共感してもらえた、次に何をすれば良いのかわかった、相談できる場所や人がいることを教えてもらえた、と患者さんが感じることができれば、不安は減るでしょう。 したがって、医療従事者としては 1) 患者さんの怒りに自分が巻き込まれない(目の前で怒っている人の姿を冷静に観察する) 2) 患者さんの怒りの裏にあるネガティブな感情が何か考える 3) いくつか質問を投げ掛けて、その感情を探る 4) 話を聞いて共感する 5) ネガティブな感情を多少なりとも減らせるような具体的で実現可能な方法を提示する といったことを、繰り返し行うことが訴訟リスクを回避するためには必要です。特に、1)の「相手の怒りに巻き込まれない」ことが重要です。怒りの感情は伝染するため、怒っている人を見ると何となく自分も嫌な気分になってしまいますが、そこで相手の怒りに巻き込まれずに「この人が本当に伝えたいことはなんだろう」と距離を置いて冷静に考えてみてください。その人の言葉の端々に怒りに至る前のネガティブな感情が見え隠れしていると思います。 職場・チーム内だけではなく、患者さんとも良い関係を築いて、訴訟リスクを回避するためにも、アンガーマネジメントを活用してください。"

2016-06-21

"一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定 アンガーマネジメントシニアファシリテーター 須田愛子 "