耳より!SPかわら版

コラム

第1回:後発医薬品不可

"後発医薬品の取扱いについて このほど、自民党の河野太郎グループが、無駄の撲滅を掲げて政策提言を発表しました。その中には、厚生労働省へ医療費適正化の提言も含まれています。中でも目を引くのは、後発医薬品の扱いで、「先発医薬品を調剤させる場合には、処方箋に先発医薬品を調剤させる必要性を医師が明記することを義務付けるべき」とあります。医療費抑制に決め手がない中で、確実に効果があるのは後発医薬品の使用促進であることは間違いなく、今後もなりふり構わぬ促進策がとられることが予想されます。処方せん全体のうち、後発医薬品へのすべて変更不可の処方箋は、3割近くに上ると言われており※1)、使用促進の大きな阻害要因と目されているようです。 ジェネリック医薬品イメージ 海外の制度とTPPと後発医薬品の今後 ところで今回の河野グループのこの提言は目新しいものではなく、既に米国では取り入れられている制度です。その米国では、わが国と制度の違いはあるものの、保険診療で先発医薬品を調剤させる必要性の理由が認められるケースは、ほとんどないと言われています。翻って、日本の後発医薬品の品質については、専門学会の議論は少なくとも先発品と比較して、臨床上問題のあるものはないということでほぼ確定しているほか、世界的にも高い評価を得ています。こうした環境を見ると、わが国でも今後「先発医薬品を調剤させる必要性」として認められる理由が、益々狭まっていく可能性があります。さてそうなると、最悪の場合、後発医薬品変更不可の処方箋発行に対し、損害を与えたとして訴訟すら起こされかねない状況になります。 金融界の先例 この話は全くの絵空事ではなく、金融の世界では既に似たような現象が起きています。最近、TVなどで、法律事務所などが「返済済みの借金の過払い分が戻ってくるケースがあるのでご相談ください。」という趣旨のCMを見かけた方も多いと思います。この話は、元々金利の上限は、利息制限法では100万円以上では15%/年以下という規制があったのですが、罰則がなかったこともあり、実態としてこれ以上の金利で営業している業者が多く空文化された状態でした。それが、2006年に「金利15%を超える利息は、不当利得で支払い義務なし」という判例が、最高裁で出たのです。その結果、裁判を起こせば過払い分が戻ってくるということになり、現在CMでよく見かける返還訴訟が増える事態になりました。つまり、グレーゾーンのルール「運用」が変わってしまいこのようなことが起きてしまったのです。実は、最近はこうしたルール変更ともいうべき法律の運用変更が、国際化や情報化など社会環境の激しい変化でしばしば見られます。 医療費と2025年問題と国際化 現在、巷では2025年問題がささやかれています。これは、いわゆる団塊の世代が75歳以上になる2025年から高齢化がピーク状態を迎え、それに対し医療保険の財源をどのように保つべきかが国家的な課題となっていることを指しています。今回の内閣改造でも、新自由主義派と目される塩崎恭久氏が厚生労働大臣に就任しました。国際化が進み、医療業界では地域包括ケアの問題や薬価改定間隔の見直しなど、ルール変更の議論が進んでいます。「生き残るのは、強い者ではなく環境に適応したものだ」とはダーウィンの言葉ですが、今、医療業界は変革の時期を迎えています。「環境に適応する」ことが、今後ますます重要なキーワードとなることは間違いないでしょう。 "

2014-10-23

立命館大学薬学部 非常勤講師 横井正之先生